「$1あたり$36」の出どころと計画に使えない理由を解説し、全コスト、クリックによるアトリビューション、ホールドアウトで自社のメールのROIを測る方法を紹介します。

メールのROIとは、メール施策が生み出す利益を、その運用にかかるコストと比べたものです。多くのプレゼン資料が「費やした$1ごとに$36」という数字を引用していますが、これは、マーケターが自己申告したリターンを平均した、アンケート調査の数字です。誰かが測定したものではなく、あなたの施策については何も語っていません。
この記事では、$36という数字の出どころと、その代わりに私たちが使っている方法を紹介します。すべてのコストを数え、アトリビューションのルールを事前に決め、ホールドアウトを実施して、メールが実際にもたらしたものを確かめます。
この数字は、マーケターを対象にした2つの調査にさかのぼります。米国の Litmus と、英国の Data & Marketing Association(DMA)です。
Litmus は、2018年に「38:1」という数字を発表しました。同社の記事「The ROI for Email Marketing: The Good News and the Bad News」は、その出典を「世界のマーケター372人を対象にした Litmus の調査」とし、メールのROIを「うまく、またはとてもうまく」測定できているブランドは30%にすぎないとしています。2018年10月11日のプレスリリースでは、この調査は「世界の400人近いマーケターのデータに基づく」と説明されています。
「Why You Should Invest in Email Now More Than Ever」によると、2019年には42:1に上昇しました。そして、2,000人を超えるマーケティング担当者を対象にした調査「State of Email Report, Fall 2020」には、次のように書かれています。
「匿名で報告されたメール施策のROIは低下した。2019年の42:1から、2020年には36:1に下がった」
これが$36の正体です。同じレポートは数ページあとで、「自社がメールマーケティングのROIをうまく、またはとてもうまく測定できていると考えていたのは4分の1未満」であり、「45%が、測定は不十分、非常に不十分、または行われていないと回答した」と付け加えています。
Litmus は、今もこの数字に頼っています。2025年6月に更新された同社のメールのROIのページは、「平均すると、メールは費やした$1ごとに$36のROIをもたらす」という一文で始まります。2025年7月のROIのインフォグラフィックでは、その数字は「Litmus の2020年の State of Email 調査から導き出したもの」だとしています。
DMAの Marketer Email Tracker は、グラフの横に質問文を載せています。「メールマーケティングに費やした1ポンドごとに、おおよそどれくらいのリターンを得ていますか?」というものです。2019年版のレポートと2021年版のレポートでの回答は、次の表のとおりです。
| 出典 | 公表時期 | 数値 | サンプル | 方法 |
|---|---|---|---|---|
| Litmus(2018年) | 2018年8〜10月 | 38:1 | マーケター372人(リリースでは「400人近く」) | アンケート調査 |
| Litmus(2019年) | 2019年8月 | 42:1 | 記載なし | アンケート調査 |
| Litmus、State of Email Fall 2020 | 2020年9月 | 36:1 | 2,000人を超えるマーケター | 「匿名で報告」 |
| DMA Marketer Email Tracker 2019 | 2019年 | £1あたり£42.24 | 英国のマーケター197人(2019年1月) | オンライン調査、「おおよそのリターン」 |
| DMA Marketer Email Tracker 2021 | 2021年 | £1あたり£38.33 | 英国のマーケター213人(2021年4月) | オンライン調査、「おおよそのリターン」 |
自己申告である。各データは、ROIをきちんと測定できていると答えた人が4分の1にも満たない集団の、マーケターによる推測です。推測をいくら平均しても、測定にはなりません。
売上が定義されていない。ある回答者は開封から30日以内のあらゆる注文を数え、別の回答者はクリックから24時間以内の注文だけを数えているかもしれません。自社の数字が36と違っても、施策の成果が劣るのか、ルールが厳しいだけなのかを判断できません。
限界リターンではなく、平均である。当時 Litmus のリサーチディレクターだった Chad White 氏は、2018年のリリースで「こうした非常に高いROIは、実はマネジメントの失敗の表れだ」と述べ、企業はROIが「20:1に近い水準、あるいはそれ以下」に下がるまで投資すべきだとしています。予算の判断を左右するのは次の$1のリターンであり、それは通常、平均より低くなります。
発行元はメールツールを販売している。「CMO's Guide to Email ROI」は、同じ調査データを使って、Litmus Email Analytics を使うブランドは「平均45:1のROIを生み出している」と述べています。事実かもしれませんが、これはマーケティングでもあります。この一連の数字は、ベンダーによる調査として扱いましょう。
コストと売上には、同じ期間を使います。通常は1か月です。特に重要なのは、次の4項目です。より詳しいチェックリストは、メールマーケティングのROIの記事にあります。
| コスト項目 | 計算方法 | よくある間違い |
|---|---|---|
| プラットフォーム | ESPの月額料金に、超過料金、専用IP、有料アドオンを加えたもの | 基本プランの料金だけを数える |
| 人件費 | メールに費やした月間の時間に、間接費込みの時間単価(給与+間接費)を掛けたもの | レビュー、QA、エンジニアリングの時間を含めない |
| クリエイティブとツール | デザインツール、画像のライセンス、テストツールと分析ツール、代理店やフリーランスへの報酬(共有している場合は按分) | 共有しているツールの費用を100%メールに計上する |
| リストの獲得 | リードマグネット、登録特典、有料でのリスト拡大にかかる費用を、購読者の想定継続期間で割ったもの | 別の予算に計上されているという理由で含めない |
メール限定の割引もコストに含めます。ここに含めるか、売上から差し引くかのどちらかにし、両方で数えないようにしましょう。
アトリビューションによる売上とは、あなたが選んだルールのもとで、ツールがメールの成果とみなした売上のことです。因果関係については何も証明しませんが、すべての送信について得られます。
ルールでは、どのインタラクション(クリック、開封、配信)を成果の起点とするか、そしてそのあとどれくらいの期間の注文までを数えるかを決めます。デフォルトはツールによって異なります。Klaviyo のアトリビューションのドキュメントによると、新しいアカウントではラストタッチが使われ、期間は「メールのクリックから5日間」と「メールの開封から5日間」です。Google アナリティクス 4のデフォルトは、ほとんどのキーイベントで90日間のルックバック期間、モデルはデータドリブン アトリビューションです。そのため、ESPとGA4の数字は食い違いますが、どちらにも不具合があるわけではありません。
私たちなら、クリックを基準にしたラストタッチを使い、期間は顧客が購入に至るまでの時間に合わせます。衝動買いが多いECなら1〜5日、検討が必要な購入やSaaSのトライアルなら14〜30日です。ルールはすべてのレポートに書き添え、四半期の途中では変えないようにしましょう。
Apple は2021年6月7日にメールプライバシー保護を発表し、この機能は「送信者が見えないピクセルを使ってユーザーの情報を収集することを防ぐ」と説明しました。Apple のプライバシーに関するページによると、「メールアクティビティを保護」(Protect Mail Activity)は、「メールを操作したかどうかにかかわらず、デフォルトでリモートコンテンツをバックグラウンドでダウンロード」します。
そのため、開封を基準にした期間では、メールを一度も目にしていないかもしれない人の注文まで、メールの成果として計上されてしまいます。Klaviyo のコンバージョントラッキングの記事には、「誰かが開封またはクリックした場合や、Apple のメールプライバシー保護(MPP)がメールを自動的に開封した場合に、コンバージョンが追跡される」とあり、MPPによる開封を除外する設定も用意されています。お使いのツールで同様の設定を確認するか、開封はまったく使わないようにしましょう。開封から今でもわかることについては、メールの指標についての記事で解説しています。
Google のキャンペーンURLのガイドでは、utm_source、utm_medium、utm_campaign が挙げられており、medium の例として「email」が示されています。すべてのリンクで、一貫して使いましょう。
https://example.com/spring?utm_source=newsletter&utm_medium=email&utm_campaign=2026-03-spring-sale&utm_content=hero-button次の4つの指標を使うと、送信、月、セグメントを同じ条件で比べられます。
Revenue per recipient (RPR) = attributed revenue / delivered emails
Revenue per 1,000 delivered (RPM) = RPR x 1,000
Revenue per send = attributed revenue credited to one send
Revenue per subscriber per month = email revenue in the month / average subscribed contacts emailed (holdout excluded)バウンスでRPRが下がらないよう、送信数ではなく到達数で割りましょう。最も役に立つのは、購読者1人あたりの月間売上です。購読者1人の獲得にかかるコストと比べられるからです。
ホールドアウト(対照群)とは、リストからランダムに抜き出し、意図的にメールを送らない部分のことです。一定期間後の1人あたりの購入額の差に、メールを送ったグループの人数を掛けたものが、メールがもたらした売上です。アトリビューションは、誰が購入前にクリックしたかを示します。ホールドアウトは、メールがなくても何が起きていたかを示します。
必要な規模は、ベースラインの購入率と、検出したい最小のリフトによって決まります。Braze の対照群に関するガイダンスでは、1,000ユーザー以上、かつオーディエンスの10%以下(オーディエンスが10,000未満なら最大15%)とされています。これは最低限の目安です。次の表は、信頼度95%、検出力80%で、分散をプールしない2群の比率の差の検定にもとづいています。均等に分けた場合の数字は Evan Miller 氏の計算ツールで再現でき、A/Bテストのガイドでは、同じ考え方を送信に当てはめています。
| 30日間のベースライン購入率 | 検出したいリフト | 1グループあたりの人数(50/50で分割) | リスト全体(10%のホールドアウト) | リスト全体(5%のホールドアウト) |
|---|---|---|---|---|
| 2% | 10%(2.0%→2.2%) | 80,700 | 431,500 | 813,600 |
| 2% | 20%(2.0%→2.4%) | 21,100 | 108,900 | 204,400 |
| 2% | 30%(2.0%→2.6%) | 9,800 | 48,900 | 91,300 |
| 5% | 10%(5.0%→5.5%) | 31,200 | 167,300 | 315,400 |
| 5% | 20%(5.0%→6.0%) | 8,200 | 42,200 | 79,200 |
20,000人のリストなら、件名ではなく施策全体をテストすべきです。少数の大口注文で購読者1人あたりの売上は大きく変わるため、検定は購入率で行い、売上はその幅とあわせて報告しましょう。
少なくとも購買サイクル1回分、そして決して4週間を下回らない期間で実施しましょう。同じ人がずっと締め出されたままにならないよう、1〜2四半期ごとにランダムに割り当て直します。ホールドアウトでは、おおよそ「その人数×購読者1人あたりの増分売上」の売上を失うため、5〜10%に抑えましょう。
ここに出てくる数字はすべて架空のもので、ベンチマークではありません。
購読者120,000人のストアが、12,000人(10%)を30日間ホールドアウトし、残りには通常どおりメールを送ります。キャンペーン4回とオートメーションです。平均注文額は$75、粗利率は45%です。

1か月、2つの測定。アトリビューションでは$64,000がメールの成果とされますが、ホールドアウトによると、メールがもたらしたのは約$32,400です。
COSTS (month)
Platform $1,000
People: 60 h x $85 $5,100
Creative and tools $600
List acquisition, amortized $1,300
Total cost $8,000
ATTRIBUTED (5-day click window, from the ESP)
Attributed revenue $64,000
Delivered emails 420,000
RPR = 64,000 / 420,000 $0.152 (RPM $152)
Revenue per subscriber/month $0.59 (64,000 / 108,000)
Revenue ratio = 64,000 / 8,000 8:1
INCREMENTAL (all orders, from the store)
Emailed group purchase rate 2.4% (2,592 of 108,000)
Holdout purchase rate 2.0% (240 of 12,000)
Incremental revenue per emailed subscriber
= (0.024 - 0.020) x $75 $0.30
Incremental revenue = 0.30 x 108,000 $32,400
Incremental gross profit = 32,400 x 0.45 $14,580
Incremental profit ROI = (14,580 - 8,000) / 8,000 = 82%アトリビューションでは8:1です。ホールドアウトによると、メールは費やした$1あたり$1.82の粗利を生みました。計画には後者を使いましょう。
注意点があります。ホールドアウトが12,000人の場合、購入率の差の95%信頼区間はおよそ0.13〜0.67パーセントポイントで、増分売上にするとおよそ$10,800〜$54,000です。利益ベースのROIでは約-39%〜204%の幅になり、しかも注文額を固定として扱っていますが、実際にはそうではありません。1か月のデータからわかるのは、メールがほぼ確実に売上を上積みしているということであり、コストを回収できているとまではまだ言えません。あと数か月続ければ、幅は狭まります。
メールの効果がリピート購入、解約、更新を通じて積み上がっていく場合、月次の数字ではメールの効果を過小評価してしまいます。長期間のホールドアウトなら、6か月や12か月かけてその効果をとらえられます。
LTV uplift per subscriber = (12-month revenue per emailed subscriber
- 12-month revenue per holdout subscriber) x gross margin購読者1人あたりの増分売上は、リストを増やすことの価値を見積もるのにも使えます。この例では、購読者1人の価値は、1か月あたり$0.30 × 45% = $0.135の粗利です。1人の獲得に$2.00かかるなら、回収にはおよそ15か月かかります。お金をかけてリストを増やす前に、解約率と配信停止率を確認しましょう。
この方法のうち、エンゲージメントのデータは Brew が提供します。売上のデータは、ストアや請求システムから得ます。
エンゲージメントのレポート。分析の概要画面では、送信、到達、開封、クリック、バウンス、迷惑メール報告、配信停止の件数と、それぞれの率を確認できます。開封数には機械による開封が、クリック数にはボットによるクリックが含まれません。エージェントはMCPツールの get_email_analytics から、コードは /v1/analytics から、同じ数字を取得できます。詳しくは、分析の見方のドキュメントをご覧ください。
売上は自社の分析ツールにある。主な指標についてのドキュメントにあるとおり、コンバージョンは「Brew ではなく、自社の分析プラットフォームで追跡」されます。リンクにUTMパラメーターを付け、GA4やストアで注文を数えましょう。
クリックと注文を結び付ける。イベントレポート(get_email_analytics または /v1/analytics/events)は、日時、イベントの種類、受信者、配信、メールを含む行を、イベントごとに1行ずつ返します。クリックの行をメールアドレスとタイムスタンプで注文と結合すれば、自社で決めた期間を適用できます。
コンタクトの注文データ。Shopify 連携と Stripe 連携は、ストアや請求のイベントからオートメーションを起動し、shopify_last_order_total、shopify_last_order_at、stripe_lifetime_value_cents などのフィールドを各コンタクトに同期します。これらはセグメント化や妥当性のチェックに使い、アトリビューションには使わないでください。
ホールドアウト。オートメーションの「分岐」ノードは、ランダムな割合ではなくフィルターで振り分けます。そのため、ランダムなフラグは自社のデータで生成してカスタムフィールドに書き込み(CSVのインポートまたは POST /v1/contacts)、配信先のオーディエンスから除外しましょう。
それは、Litmus の2020年の State of Email 調査でマーケターが報告した数字の平均であり、測定された結果ではありません。同じレポートでは、自社がメールのROIをきちんと測定できていると答えたのは4分の1未満でした。あなたの会社のROIは、それよりはるかに高いことも、低いこともありえます。
増分の粗利がすべてのコストを上回っていれば(利益ベースのROIが0%超)、その施策はコストを回収できています。公表されている平均値は売上のルールが定義されていないので、定義を固定したうえで、自社の数字を月ごとに追跡しましょう。
利益ベースでは、(増分の粗利 − メール施策のコスト)÷ メール施策のコストです。アトリビューションによる売上しかない場合は、(アトリビューションによる売上 − コスト)÷ コストを、アトリビューション期間を明記したうえで報告します。増分の数字は、ホールドアウトから得られます。
購買サイクルに合った、クリックを基準にした期間です。一般的には、衝動買いが多いECなら1〜5日、検討が必要な購入やトライアルなら14〜30日です。開封を基準にした期間は使わないでください。Apple のメールプライバシー保護は、誰かがメールを読んだかどうかにかかわらず、トラッキングピクセルを読み込むからです。
検出したいリフトをとらえられるだけの規模が必要です。購入率が2%の場合、信頼度95%、検出力80%で20%のリフトを検出するには、全体およそ109,000人のうち、10%のホールドアウトとして約10,900人が必要です。1,000人以上、かつオーディエンスの10%以下という Braze のガイダンスは最低限の目安であり、それで十分という保証ではありません。
